心電図(ECG)は精度が高いものの、測定には動作を止めて指をリューズに当てる必要がある。一方、光電式容積脈波(PPG)は手軽だが、精度不足が長年の課題だった。サムスン・リサーチ・アメリカ(Samsung Research America)は今回、どちらか一方を選ぶのではなく、2つの信号を互いに補完させる道を選んだ。

台北時間8月14日、海外メディアArtificial Intelligence Newsの報道によると、サムスン・リサーチ・アメリカ傘下のデジタルヘルスチームが2種の健康基盤モデル「xMAE」と「HiMAE」を発表した。スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスが収集する心臓活動、睡眠、身体活動のデータを対象に、自己教師あり学習によって大量の未ラベル信号から直接特徴を抽出する仕組みだ。

xMAE:PPGにECGとの「タイムラグ」を学習させる

xMAEの正式名称は「生理学的認識型マスク・クロスモーダル再構成による生体信号表現学習」。具体的にはPPGとECGの時間的な関係性を学習させるというものだ。研究チームは9,400時間を超えるPPGとECGのデータで事前学習を行い、モデルに両信号が時間軸上でどう対応するかを記憶させた。結果として、スマートウォッチは日常的に測定しているPPGだけから、ECGに近いレベルの心血管系の特徴を逆算できるようになり、ユーザーがわざわざ手を止めて心電図を測る必要がなくなる。サムスンによれば、xMAEは19項目の評価タスクのうち15項目で既存のマルチモーダル手法を上回った。この論文は機械学習分野のトップ会議ICMLにも採択されている。

HiMAE:スマートウォッチのCPUで実現する1ミリ秒

xMAEが「何を測るか」を解決するモデルなら、HiMAEは「いかに速くするか」を解決するモデルだ。この「階層型マスク・オートエンコーダー」は、異なるエンコーダーで異なる時間スケールの信号を分担処理する仕組みを採る——心拍のような短時間で急激に変化する信号と、睡眠の質のような長時間かけて蓄積される信号を、それぞれ別に読み取るのだ。モデルのサイズは既存の手法より小さいにもかかわらず、スマートウォッチ級のCPU上で1ミリ秒未満の処理を実現する。クラウド演算に接続する必要がないため、分析はリアルタイムで完結し、機微な健康データをサーバーにアップロードする必要もない。この研究は国際学習表現会議ICLRでも評価されている。

サムスン・リサーチ・アメリカでデジタルヘルスのアルゴリズムを統括するシャラニヤ・デサイ氏は、これが効率的かつ正確で継続的な健康インサイトを提供するための技術基盤になると述べ、今後は演算資源が限られたより多くのデバイスへ展開していく方針を示した。デジタルヘルス研究ラボを率いるスブ・ヴェンカトラマン氏は、健康基盤モデルが動的な信号の背後にある時間構造を捉えられることが証明されたと強調し、チームは今後も研究成果を実際の健康改善につながる医療応用へと転化していくとした。

両技術はいずれも、サムスンが2026年7月に打ち出した「コネクテッドケア(Connected Care)」構想に対応するものだ。現時点で具体的な製品化のスケジュールや対応機種は明らかにされていない。