単座コックピット、垂直に並ぶライト、そして神経質なまでに張り詰めた幾本ものライン――Cadillac V-One Concept は、カリフォルニア・モントレーの The Quail, A Motorsports Gathering の芝生の上に鎮座しながら、およそ「コンセプトカー」らしからぬ佇まいを見せている。むしろ、ル・マンのサーキットから降りてきたばかりのレースカーに、そのままシルバーグレーからディープブルーへのグラデーション塗装を吹き付けたような一台だ。実際、ほぼその通りである。V-One の骨格は、ル・マン24時間耐久レースを戦うプロトタイプレースカー Cadillac V-Series.R から直接派生したもので、違うのは今回の塗装がドライバーではなく買い手のために施されている点だけだ。公道は走れず、仮に量産されたとしてもごく少数にとどまるだろう。買い手はおそらくこの車を自身のプライベートサーキットへ送り込み、オーナー専用のリバリーを纏わせることになるはずだ。

この「みだりに変えられない」という制約こそが、この車の最も興味深いところだ。Cadillac Exteriors デザインマネージャーの Kevin Nougarede は率直にこう語る。「基本的にレースカーであるものを作るというのは、私たちの普段の仕事とはまったく違う。比率や造形を気軽にいじることはできない。なぜならそのラインはパフォーマンスのために、そしてドライバーの安全を守るために存在しているからだ。デザイン要素を一つでも勝手に変えれば、車はコントロールを失いかねない」。では感情的な魅力はどこから生まれるのか。彼はパネル間の隙間、曲面のつなぎ方、そして塗装そのものだと言う。Elevated Velocity や Opulent Velocity といった Cadillac の歴代コンセプトカーが自由奔放だったのに対し、V-One はむしろエンジニアリングの制約に手足を縛られたところから生まれたデザイン性を持っている。

Global Cadillac のデザイン担当エグゼクティブディレクター Dominic Najafi は、デトロイトの新デザインセンターで少人数のメディアを前に、修辞的な問いを投げかけた。「なぜ私たちはコンセプトカーを作るのか?」。彼自身の答えはこうだ。デザイン投資を重視する GM のような企業にとって、コンセプトカーとは大胆な決断を素早く形にできるキャンバスであり、比率、アーキテクチャ、曲面処理に挑戦し、そこで得たインスピレーションを会社全体に還元するためのものだと。彼はまた、V-One が過去のコンセプトカーに比べて現実的な比率に近いにもかかわらず、デザインチームは「止まらなかった」とも認めている。就業後もこの車のスケッチを描き続けていたのだという。取材中、Nougarede のそばにいたベテランデザイナーの一人も、うつむきながらまた一枚、V-One の鉛筆スケッチを描いていた。

世代交代の節目に

この車が登場したタイミングも絶妙だ。GM のグローバルデザイントップ Michael Simcoe が昨年退任し、後任には Bryan Nesbitt が就いた。もともと Cadillac のエクステリアデザイン担当ディレクターだった Bob Boniface と、後に GM のアドバンストデザイン担当エグゼクティブディレクターへ転じた Andrew Smith も、相次いで退任している。Najafi は Nesbitt からバトンを受け継いだ人物で、それ以前は Jaguar Land Rover、Bentley、GM Europe に在籍していた。彼とチームが今働いているのは、新たに完成した延べ床面積36万平方フィートの Design West デザインビルで、1956年に稼働を開始し、今も1950年代モダンな雰囲気のカーペットや木工を残す Saarinen Building の向かいの芝生に建てられている。中ではロボットアームが等身大の赤い粘土製ボディを緻密に削り出している――これは Harley Earl の時代から続く古典的な手法を、未来的な新設備の中に落とし込んだものだ。

Cadillac の歴史の中で最も高く評価されてきたデザインの時代は、いずれもアメリカ社会が激動していた時期と重なる。1930年代の大恐慌の中で生まれた、Harley Earl の手による1934年 Cadillac V-16 Fleetwood Aerodynamic Coupe。第二次世界大戦後には、デザイナー Franklin Q. Hershey が Lockheed P-38 戦闘機の双垂直尾翼にインスパイアされて手がけた、1948年 Cadillac の代名詞ともいえるテールフィンがある。V-One が「激動の時代にこそ楽観的に未来を描く」というこの系譜を継ぐものなのかどうか、資料の中に答えは示されていない。だが Najafi がクレイモデルの前で口にした「この車は本当にインスピレーションを刺激する」という言葉は、彼自身もまだそれを確かめている最中であるかのように聞こえた。

この車についての Nougarede の言葉が、もっとも的を射ているかもしれない。「面白い。でも少し怖くもある、これまでと違うから。デザイナーとして、私たちは常に既存のやり方を覆したいと思ってきた。今回試みたのは、既存のもののために、新しく違う物語をデザインでどう語るか、ということだ」。V-One の価格や量産スケジュールは、現時点では公表されていない。






