昨年、防衛テック系スタートアップHelsingに6億9400万ドルを投じたDaniel Ek。Spotifyの創業者であり現会長でもある彼のこの一手は、プラットフォーム史上最大級の反発を招き、抗議のために楽曲を削除するアーティストまで現れた。結果はどうだったか。直近四半期のSpotifyは売上・利益・月間アクティブユーザー数すべてが増加し続けている。有料登録者2億9300万人、月間アクティブユーザー7億6100万人——この数字は炎上によって微動だにしなかった。

さらに厄介なのがAIだ。SpotifyはAI生成音楽に「AI Personas」というラベルを付ける方針だが、その仕組みは自己申告制で、人力とAIによる審査で人気アカウントをチェックする程度。正直者に責任を押し付けているように聞こえても仕方がない。一方でUniversalと結んだAIカバー/リミックスのライセンス契約は、Premiumのアドオンとして販売される予定で、理屈上はアーティストに多少の収益をもたらす。これがこの騒動の中で唯一まともに見える部分かもしれない。

これを機に乗り換えを考えているなら、まず理解すべきことがある。ストリーミングの還元には「再生1回あたりいくら」というクリーンな計算式は存在しない。各社はまず売上の約3割をプラットフォームコストとして差し引き、残りを全体の再生回数に占めるアーティストの割合——いわゆる「streamshare」に応じて分配する。しかもそのお金は直接アーティストの懐に入るわけではなく、まずレーベルやディストリビューターに渡り、契約に基づいて音楽家に分配される仕組みだ。「再生1回あたり0.0何セント」という数字が馬鹿げて聞こえるのも当然だが、そもそも構造自体がそういうものなのだ。

大手に乗り換えても、本質はさほど変わらない

Apple Musicは月11ドル、Amazon MusicとYouTube Musicはどちらも月12ドル(Amazon Prime会員はさらに1ドル割引)、YouTube Premiumは月16ドルで、サイト全体の広告非表示に加えYouTube Musicも付いてくる。この3社にはSpotifyにはない実用的な違いがある。Apple Musicは自分の音楽ファイルをサブスクの楽曲ライブラリと混在させられ、Dolby Atmosにも対応。YouTube Musicはロスレス再生こそないものの、YouTube上の膨大なアップロード楽曲にアクセスできる。ただし違いは体験の部分であり、倫理的立場ではない——結局のところApple、Amazon、Googleに乗り換えても、テック大手に餌をやっているのは変わらない。

本気で透明な還元を求めるなら、この5社を見るべき

Tidalはかつて「アーティストに優しい」代表格で、一時期はサブスク料金の最大10%をユーザーが最もよく聴くアーティストに直接分配する仕組みを持っていた。だがこの「direct artist payouts」制度は2023年に廃止。現在Tidalは(Square、Cash Appの親会社である)Blockの傘下にあり、支払いの詳細について問い合わせても回答はなかった。

Deezerのやり方はより具体的だ。3割を差し引いた後、残りはstreamshareに基づく配分に加えて倍率が適用される。ユーザーが特定の曲やアーティストを手動で検索して再生した場合は2倍、月間の重複しないリスナーが500人を超えかつ月間再生回数が1000回を超えるアーティストも2倍——両方の条件を満たせば最大4倍になる。バックグラウンドのホワイトノイズや雷雨音のシミュレーションといったコンテンツは対象外で、AI生成音楽についてはDeezerが85%を不正再生と判定し、支払い自体を行わない。ただし同社によればAI音楽が全体の再生回数に占める割合は現状1〜3%程度だという。

Qobuzは高解像度音質路線を取っており、基本プランは月13ドル、年払いなら月10.83ドルに下がる。FLAC 24bit/192kHzの再生が可能で、年額180ドルのSublimeプランも用意されている。実際の還元額を公表している数少ないサービスの一つで、2024会計年度の平均支払額は再生1回あたり0.01873ドル、1000回再生あたり約18.73ドルに相当する。ユーザー1人あたりの年間平均貢献収益は121.13ドルで、公式には業界平均とされる22.38ドルの数倍にあたるとしている。

Coda Musicは新顔で、アルゴリズムではなくコミュニティ型のレコメンドを売りにしている——個人ページはSNSのように最近の再生履歴、公開プレイリスト、注目アルバムのコーナーが並ぶ。CEOのRandy Fusee氏によると、2026年4月時点での平均支払額は再生1回あたり0.014ドルで、Qobuzが公表する数字よりやや低い。加えてユーザーは月額料金のうち1ドルを特定のアーティストに直接渡す指定ができるが、そのアーティストが事前にこの制度に参加している必要があり、実際には指定したい音楽家の多くがまだ対象になっていないケースが多い。

Vocanaはさらに極端で、ライブラリの100%がインディーアーティストで構成されている。還元ロジックは「誰を聴いたか、そのままお金が流れる」というもの。同社社長のNeil Sheehan氏の説明によれば、あるユーザーの視聴時間の5割が1人のアーティストに集中している場合、プラットフォームとライセンスのコストを差し引いた後、そのアーティストはそのユーザーの印税プールのおよそ半分を受け取ることになるという。現在は無料ベータ版で、正式ローンチ後は月9ドルになる予定だが、メジャーレーベルの楽曲がないため、Spotifyの直接的な代替とは言い難い。

いっそ音楽を買い切ってしまうという選択肢もある。Bandcampは今なお、実際のお金をインディーアーティストやレーベルに直接届ける最も分かりやすい手段であり、フォーマットの選択肢も豊富だ。QobuzのストアではCD音質以上のロスレスダウンロードが可能で、Sublime会員なら割引も受けられる。アーティストの公式サイトで直接アルバムを購入するという選択肢が提供されるかどうかは、彼らがメジャーレーベルにどこまで縛られているかに大きく左右される。