10月24日に東京・国立西洋美術館で開幕した「テート美術館 ターナー展」は、80点以上のターナーの油彩、水彩などを、戦後・現代美術と同じ鑑賞の流れに置く展覧会だ。会期は2027年2月21日まで。英国の名画を上野へ運ぶだけでなく、嵐や光、人間の歴史が芸術にどう入り続けるかを問う。本日10月26日は月曜休館のため、東京滞在中の人も開幕直後という理由だけで足を運ばないようにしたい。
なぜターナーを「崇高」から見るのか
展覧会の鍵となる「崇高」は、風景が美しいという意味にとどまらない。自然の規模や力が人間の制御を超えるとき、畏れと不安が同時に生まれる感覚に関わる。1775年生まれ、1851年没のターナーは、移ろう光や大気、荒れる海だけでなく、産業革命期の蒸気や煤煙にも目を向けた。画面の曖昧さは単なるソフトフォーカスではなく、不安定な世界を理解する入口にもなる。生誕250周年は今年ではなく2025年だった。
公式に紹介されている《グリゾン州の雪崩》は1810年に展示され、落ちる岩と山の構造が人間の尺度を小さくする。1835~40年頃の《荒海とイルカ》では、海と空の境界が不確かになる。1846年に展示された捕鯨船の絵では、明るい色彩に労働や航海も重なる。明瞭な水平線を先に探すより、形がどこで溶け、色によってどこで再び組み立てられるかを追ってみたい。
ターナー《荒海とイルカ》。1835~40年頃、テート美術館蔵。
ターナーの捕鯨船を描いた作品。1846年展示。名画展に氷河の写真や映像がある理由
会場で聞こえる声はターナーだけではない。オラファー・エリアソンが2019年に制作した《溶ける氷河のシリーズ 1999/2019》は、30組の写真で異なる年の氷河を比較し、風景を一瞬の印象から時間を比較できる記録へと変える。19世紀の自然表現と並べることで、画家が雰囲気をどう描くかだけでなく、人間の活動が描かれる環境をどう変えるかという問いも生まれる。歴史を現在へ引き寄せる具体的な仕掛けだ。
エリアソン《溶ける氷河のシリーズ 1999/2019》。2019年、30組の写真で変化を記録。もう一つの公式の注目作品は、オトリス・グループによる2010年の映像《Hydra Decapita》だ。ターナーに関わる海の問題から、植民地主義、奴隷貿易、現代の資本構造へと思考を広げる。海はロマンティックな背景だけではなく、人間の制度や暴力も引き受けている。本展は抽象表現主義にも触れるが、ターナーの晩年の絵をすべて抽象芸術の予告と急いで解釈せず、光、大気、具体的な対象に立ち戻ることも大切だ。
オトリス・グループ《Hydra Decapita》。2010年の映像作品。上野での観覧時間、料金、学生無料日
所在地は台東区上野公園7-7。開館時間は9:30~17:30、金曜と土曜は20:00までで、入館は閉館の30分前までとなる。月曜は原則休館だが、11月23日と2027年1月11日は開館。ほかに11月24日、12月28日~2027年1月1日、1月12日は休館する。常設展も見る予定なら、2027年1月12日~2月21日は常設展示室が閉室する点に注意したい。企画展の開館状況とは区別する必要がある。
現在の料金は一般2,400円、大学生1,500円、高校生1,100円、中学生以下無料。2026年11月4~19日は大学生と高校生も学生証の提示で無料となる。通常の企画展観覧券では当日に限り常設展も観覧できるが、前述の閉室期間には利用できない。条件とチケット情報は国立西洋美術館の公式展覧会ページへ。知っている名画一枚を急いで探すより、風景画と現代作品の対話に時間を割くことで、この展示の狙いに近づけるだろう。