一見すると平らな青い面でも、近づけば形が何層も重なり、円形の色面も視点や反射によって濃淡が変わる。ドイツの作家Dirk Salzは、顔料と樹脂でそのような鑑賞経験をつくる。Bluerider ART台北敦化の《Painting Without Brush — Layers of Translucence, Silence, Depth》は10月17日から12月31日まで開催し、Deep DivesとFadingsの二つのシリーズを紹介する。今年の新作だけの展覧会ではない。筆を使わずに絵画はどう成立するのか、という問いを投げかける。
Dirk Salz《DSA/M 1003 #2712》、2021年、140×210×10cm。
Dirk Salz《DSA/M 1516 #3223》、2026年、100×90×8cm。色層と重力、待つ時間から画面が生まれる
1962年生まれのSalzは工学を学び、現在はドイツのミュールハイムで生活、制作している。キャンバスに筆跡を残す代わりに、顔料を樹脂に混ぜ、塗装用ローラーで広げ、重力によって流れ、平らになるようにする。一層が硬化してから次を重ねるため、完成面には待つ時間が幾度も含まれる。色は最外層を覆うだけでなく、透明・半透明の材料の間に積み重なる。
それは光との関係も変える。反射は周囲の空間を映し、透過と層は視線を内部へ導く。一点が物体、色面、奥行きのある構成として同時に見える。公式展示写真で見える側面の厚さは、透明感を紙に印刷した平面画像ではないことを示す。素材による体積も鑑賞の一部なのだ。
年代の違う四作品からシリーズを比べる
Deep Divesの《DSA/M 1003 #2712》は2021年、140×210×10cmで、重なる青い幾何学形態が画面を組み立てる。2026年の《DSA/M 1516 #3223》は100×90×8cmの縦長に近い矩形で、暗い縁と内部の青い層が差を生む。いずれも多層合板に顔料と樹脂を使う。同じシリーズでも、幾何学の方向、寸法、重ね方で視線の動きが変わることを比較できる。
Fadingsは濃淡が徐々に移り変わる過程に目を向ける。2025年の《DSA/M 1395 #3111》は直径120cm・厚さ6cmの円形、2023年の《DSA/M 1214 #2915》は160×140×10cmだ。円も矩形もグラデーションの器となり、「一方は四角だけ、もう一方は丸だけ」と単純には分けられない。写真は色の手がかりになるが、表面の反射と周辺環境との関係も欠かせない。
Dirk Salz《DSA/M 1395 #3111》、2025年、直径120cm・厚さ6cm。
Dirk Salz《DSA/M 1214 #2915》、2023年、160×140×10cm。台北敦化で、立つ位置を鑑賞の道具にする
筆跡を抑え、材料の層を強調する作品は、まず全体の輪郭を見て、正面と側面を比べるとよい。近づいて境界や透明度を確かめ、離れて色面のまとまりを見る。位置を変えると、自分の姿や展示室が反射で画面に戻るかも観察できる。作品の仕組みに沿った見方であり、すべての色に物語を当てはめる必要はない。
会場は台北市大安区敦化南路二段77号1階。火曜〜日曜10:00〜18:30、月曜休廊。10月17日のオープニングは終了しており、現在は会期中の通常鑑賞となる。団体ガイドの予約も受け付ける。訪問前にBluerider ART公式展覧会ページで予定を確認できる。制作年と素材を予習しておけば、現地では大きさと光に目を向けられる。