
店で働くメキシコ人スタッフは、トルティーヤを作るとき水の量を一切測らない。すべて手の感覚頼りだ。ベテラン職人の謙遜のように聞こえるかもしれないが、北出茂雄が語るのは本当のこと――コーン粉は水を吸うのが遅く、レシピをどれだけ精密に書いても、最終的には手で生地の状態を感じ取るしかない。

北出茂雄の経歴はいわゆる王道ではない。まずジャマイカ音楽をきっかけにDJとして活動し、その後飲食業に本格参入。現在の事業パートナーがニューヨークで営む店で料理を学び、2013年に「北出食堂」をオープン。2020年には東京駅GranSta東京にタコス屋台「KITADE TACOS」を出店し、さらに日本橋COMMISSARYには国産トウモロコシ100%のトルティーヤを提供する「Brooklyn Ball Factory」を開いた。2026年4月には、東京・潮見に「北出食堂2」をオープン予定だ。

店の看板メニューは、ニューヨークのストリートフードさながらの小ぶりな自家製トルティーヤに具材をたっぷり包んだタコスだ。中身の具材はいくらでも自由にアレンジできるが、この料理の美味しさを決めるのは実はあの「皮」にある。

材料はコーン粉と水だけ。大きめのボウルに粉を入れ、水を少しずつ加えながら指先を立てて混ぜ、粉同士がまとまるようにする。水を多く入れすぎたと感じても慌てなくていい――コーン粉は水を吸うのが遅いので、時間をかけて練り、水分をしっかり吸収させることが大切だ。判断基準は、生地を触ったときにもちもちしていること。指で押しても表面にひび割れが入らないかどうかがポイントだ。この手の感覚こそ、覚えておくべき基準になる。

タコス用のトルティーヤは、店ではゴルフボールほどの大きさ、約30グラムに統一している。生地をトルティーヤプレスに入れ、二枚の鉄板の重みとてこの力で一気に平らに伸ばし、熱したフライパンで焼き上げる。北出茂雄はメキシコ人スタッフの言葉をこう紹介する――焼いたときに膨らむものこそ、美味しいトルティーヤなのだと。生地の中の水分が一瞬で蒸発し、それが皮を膨らませる。水分が足りなければ皮は膨らまず、食感もボソボソになってしまう。

焼きたてのトルティーヤは柔らかくもちもちとした食感。余ってしまっても無駄にはならず、トルティーヤチップスにしたり、トスターダス――トルティーヤを揚げて具材をのせた一品――に仕立てたりできる。現在店では国産の乾燥トウモロコシを使い、自家製粉を続けており、味わいをさらに一段階引き上げようとしている。

北出食堂は東京都千代田区岩本町1-13-5 8ビル1F、電話03-6240-9920。最寄駅は東京メトロ小伝馬町駅で、徒歩5分。営業時間は平日11:30~14:00LO、17:30~21:00LO、土日祝は11:30~14:00LO、17:00~21:00LO。






