
8分40秒。これがここの茹で卵の基準時間だ。卵を沸騰したお湯に入れた瞬間から計り始め、引き上げる頃には黄身がまだとろりと流れている。価格は8.40ユーロ。この偶然は編集部が勝手に見つけたわけではなく、店側が公言しているネタだ——メニューの値段まで、茹で時間の秒数に合わせているという。


パリ11区の「Ter.」は2023年にオープン。2025年5月からは、フレンチビストロで最も地味な一皿とされるウフ・マヨ(茹で卵にマヨネーズをかけたもの)を独立させ、丸ごとバーメニューとして再構成した。一度に6種類を展開し、季節ごとに具材を入れ替えながら、1皿につき卵3〜4切れ、価格は一律8.40ユーロに統一されている。素材に添えられた写真の一枚には、エスプレット唐辛子を使った自家製マヨネーズに、炙ったビゴール産黒豚のハムを合わせたものが写っている。燻製の香り、辛味、そしてゴマの香ばしさが重なり合い、思わずナチュラルワインを合わせたくなるようなおつまみに仕上がっている。

6種類の卵の中には、味噌、醤油、干し椎茸で作った漬け汁に浸したものがあり、生姜の甘酢漬けと海苔チップスが添えられている。これは無理に取り入れたエキゾチックな味付けではない。店の初代シェフが日本での生活経験を持っており、和のテイストが自然な形でフレンチビストロの定番料理に溶け込んだのだという。隣にはエスプレット唐辛子とタラゴンマヨネーズを合わせた一品もあり、バイヨンヌ産ハムとトラウトの卵(イクラ)が添えられている。


「レストランに食べに行くなら、家で5分では作れないものを味わいたいはずだ」と、共同オーナーのティボー・ブランシャール氏は語る。「ウフ・マヨはフランス料理に欠かせないもの。だからこそ、それを一から作り直すことに意味がある」。言葉こそ軽やかだが、厨房での工程は決して軽くない。卵は2日間漬け込み、生姜の甘酢漬けは2週間寝かせ、鴨肉のコンフィはじっくり26時間かけて火を通す。一見おつまみのような一皿の裏には、しっかりとしたフレンチの火入れの技が息づいている。

「Ter.」はパリ11区カミーユ・デムーラン通り11番地に位置し、火曜〜金曜は夜19時から23時まで営業。週末は昼11時半から14時半、夜は再び23時まで営業。月曜定休。






